記憶は薄れても心はつながる〜“終わらない歌”がつなぐ家族の絆の物語、『父と僕の終わらない歌』

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映画『父と僕の終わらない歌』
今公開中の『父と僕の終わらない歌』(ソニー・ピクチャーズ エンターテイメント)を観てきました。偶然のタイミングで、妹を道連れに。この映画はアルツハイマー型認知症の父と家族の物語です。アルツハイマー型認知症も珍しい病気ではなくなりました。つい先日も歌手の方がカミングアウトされていましたので、わりと聞き覚えのある病名でしょうか?実はこの物語は、イギリスのテッド・マクダーモットが80歳でCDデビューを果たした実話を基にストーリーが展開されています。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは認知症の中で最も多いタイプで、脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積し、神経細胞が壊れることで脳が萎縮し、さまざまな症状が現れる進行性の病気です。
アルツハイマー型認知症《主な特徴と症状》
- 進行性疾患:症状はゆっくりと進行し、初期は本人や家族も気づきにくいことが多い。
- 記憶障害:初期から「最近の出来事を忘れる」「同じことを何度も尋ねる」など、物忘れが目立つ。古い記憶よりも新しい記憶から失われていく。
- 見当識障害:日付や時間、場所、人が分からなくなることがある。たとえば「今日は何日?」と何度も聞いたり、慣れた場所で迷子になる。
- 実行機能障害:計画を立てて物事を進めることや、段取りを考えて行動することが難しくなる(料理の手順が分からなくなる等)
- 言語障害・失語:言葉が出てこなくなったり、相手の話が理解しづらくなる。
- 失認・失行:物や人の認識、着替えや入浴など簡単な動作が困難になる。
- 行動・心理症状:怒りっぽくなる、意欲がなくなる、妄想(例:物を盗られたと思い込む)、徘徊(目的なく歩き回る)、不安や幻覚が現れる。
- 性格の変化:穏やかだった人が怒りっぽくなったり、無気力になるなど、性格や行動が変わる。
病気の進行と共に、その人らしさが見つけにくくなるので、多くの家族は動揺してしまいます。
歌が記憶を呼び覚ます
実話では、父親の記憶が薄れていく中で、歌を一緒に歌う時間だけは父が生き生きとし、記憶が蘇るような瞬間があることに息子サイモンが気がつきます。父と車の中でデュエットする様子を収め、動画サイトに投稿し、1,000ポンド(当時約14万円)を目標にして、そこで得た収益をイギリスの研究機関アルツハイマー・ソサエティに寄付することを考えていました。それがSNSで大きな話題となり、12万5,000ポンド(当時約1,750万円)もの寄付が集まりました。やがて彼の話題はイギリス全土に広がり、アルツハイマー病の治療に音楽が非常に有効であることや音楽療法の効果について、改めて認識されるきっかけにもなりました。この度、日本での映画化や作品の脚本についても、原案作の息子サイモンからも絶賛されています。

『ストレングスモデル』と『コンパッションシティ』
このストーリーでは、歌を歌うことがキーとなっていますが、まさにストレングスモデルそのものです。ストレングスモデルとは、1970年代にチャールズ・ラップ教授によって提唱された支援理論で、「弱み」や「できないこと」ではなく、その人の「強み(ストレングス)」や「できること」に焦点を当てる考え方です。人はできないことに目が行きがちで、リカバリーに注視してしまうものです。しかしリカバリー困難な状況な局面では、そのことだけに心を奪われることなく、強みを生かせる場を整えることが、支援者が大切にすべきマインドなのです。映画で描かれていたドブ板通り商店街は、どんなパーソナリティであっても、まるごと受け入れ支え合えるコミュニティでした。老い、病、死、喪失といった誰もが経験する課題を、地域全体で共に受け止め、支え合うコミュニティ、『コンパッションシティ』そのものです。これもフィクションでは終わらせたくない、私が目指すべきものなのです。
ストーリーとは違う角度で深掘りすると、大切なことが見えてきます。
まとめ
ただいま公開中の『父と僕の終わらない歌』(ソニー・ピクチャーズ エンターテイメント)は、病気や老化を共に受け入れながら、強みである『歌を歌うこと』を通して、エンパワメント(眠っている力を呼び覚ますこと)を高め、家族や地域の人々との絆の物語です。その人らしく、尊厳が保たれ、周りと関わり合いながら共に生きていく、そんなSmileあふれるプラットフォームとして、オハナなおうちも成長していきたいと思いました。物語も心温まりますが、往年のベテラン俳優さんたちの年の重なり方にも包容力がありました。何より、認知症のお父さん役の寺尾聰さんの歌声に惹き込まれ、Smileの笑顔に心を打ち抜かれました。どきゅーん。
バーチャルシェアハウス オハナなおうちは、みんなの居場所です。今日も楽しい時間をありがとうございました。会えてうれしかったです。いつでも寄ってくださいね。リビングルームにはコメント欄がありますので、何かリアクションしていただけたら励みになります。お気をつけてお帰り下さいね。また、お待ちしてます。
映画『父と僕の終わらない歌』
『父と僕の終わらない歌』(ソニー・ピクチャーズ エンターテイメント)公式HPより
ドライブの車中で楽しげに歌う親子。アルツハイマーになった父と、その息子が起こした奇跡の実話ーーー
かつてレコードデビューを夢見たものの、僕のためにその夢を諦めた父さん。横須賀で楽器店を営みながら、時折地元のステージで歌声を披露しては喝采を浴びてきた。僕はそんなお父さんが大好きだった。だがある日、アルツハイマー型認知症と診断されてしまう。すべてを忘れゆく父さんを繋ぎとめたのは、強く優しい母、強い絆で結ばれた仲間、そして父さんが愛した音楽だったーー。大好きな歌を歌う時だけ、いつもの父さんが戻ってくる。父さんの夢は僕ら家族の、皆の夢となって再び動き出すーー。
キャスト)松坂桃李、寺尾聰、松坂慶子、三宅裕司、石倉三郎、大島美幸、佐藤浩一(友情出演)、齋藤飛鳥、ディーン・フジオカ、副島淳、佐藤栞里
監督)小泉徳宏
脚本)三嶋龍朗、小泉徳宏