「ここは天国なの?」──いまを丁寧に味わってみよう【言薬®】

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ご紹介している書籍は、看護師みやみーが実際に読み、現場の感覚と重なった一冊です。
5月の旭川は、たんぽぽが一斉に咲きます。
オハナガーデンの足元にも、上野ファームの道端にも、河原にも、空き地にも。
一面の黄色が、そっと風に揺れている景色。
ありふれた風景。
でも、その「ありふれ」が、誰かの人生をそっと動かすこともあるのだと、最近、ある 言薬(ことぐすり)に触れてから、しみじみと思うようになりまし

目次
タンポポが、微笑みを持っている
ベトナム出身の禅僧・平和活動家、ティク・ナット・ハン師の言葉に、
こんな一節があります。
「私は微笑みを失ってしまったけれど、心配しないで。タンポポがそれを持っているから」
たんぽぽが、私の微笑みを持っていてくれる。
ご自身の心が沈んでいるときでも、
足元のたんぽぽに目を落とせば、明るい黄色がそこにある。
私の代わりに、微笑みを持っていてくれる、と。
振り返れば、私もまた、現場の中で何度も教わってきました。
ここは天国か?
訪問看護で20年、本当にたくさんの方とお会いしてきました。
そのなかで、忘れられないご利用者さんの言葉があります。
関西から、旭川に移り住んでこられた、男性のご利用者さんでした。
「旭川に来た日にね、自転車で河原を走っていたら、
一面にたんぽぽが咲いていて。
ここは天国か?って、感動したんだ。」
——その言葉に、私は日常の大切さに、ハッとさせられたんです。
毎年、当たり前のように咲いて、当たり前のように散っていく、
たんぽぽ。
私たち地元の人間からすると、見慣れすぎて、もう特別なものではなくなっている景色。
でも、別の土地から来た方の目には、それが「天国」に見えた。
ティク・ナット・ハン師の言葉そのままに、
たんぽぽが、その方の微笑みを、そっと連れてきてくれていたのかもしれません。

綿毛は、何百キロも旅をするそうです
たんぽぽの綿毛、ふっと吹くと飛んでいくあの白い綿毛は、
風に乗ると、何百キロも旅をすることがあるそうです。
海を越え、山を越え、
ただ風に身をまかせて、新しい土地に降り立つ。
そして、降り立ったその場所で、
何ごともなかったかのように、また黄色い花を咲かせる。
関西から、はるばる旭川に移ってこられたあのご利用者さんも、
ある意味、綿毛だったのかもしれません。
風に乗って、新しい土地へ。
そこで「天国」に出会い、また根を下ろしていく。
たんぽぽは、ただ「咲いている」だけで、
誰かの旅路をそっと迎え入れているのですね。

今を丁寧に味わってみよう
ホスピス医として長く緩和ケアに関わってこられた、
大坂巌先生という方がいらっしゃいます。
「言葉が薬になる」——言薬®という言葉を世に届けてくださった、私の師のような存在の方です。
その大坂巌先生の著書『納得する生き方』のなかに、
「今を丁寧に味わってみよう」という章を綴っておられます。
私たちはつい、当たり前にあるものに慣れてしまう——
息ができること。
手足が動くこと。
食事ができること。
家族や友人と、他愛もない話ができること。
それらが少しずつ失われていくとき、
ようやくそのありがたさに気づく。
でも、できれば失う前に気づきたい——
先生はそう、優しく問いかけてくださっています。
仏教の「一即一切」という教えがあるそうです。
一つの瞬間に、すべての意味と価値が詰まっている、という考え方。
コーヒー一杯を、ただ喉を潤すためではなく、
香り、温度、口当たり——
細部に意識を向けるだけで、まるで違う体験になる。
苦しみの渦中にいると、何かを味わう余裕はないと思いがちです。
でも先生は、こんな小さな確認作業を勧めてくださっています。
少し深く、呼吸をしてみる。
お気に入りの音楽を聴いてみる。
好きな香りをかいでみる。
夜、寝る前に「今日はこんなことができたな」と思い返してみる。
たとえ苦しみが消えなくても、
心の中に、希望の灯をともす、小さな行為。
「何かを感じる力さえあれば、人生は味わい深いものとして最期まで続いていきます」
(大坂巌『納得する生き方』より)
——私もまた、この力を忘れたくないと、改めて思いました。
ありふれを、丁寧に味わう
ご利用者さんが見た、「ここは天国か?」のたんぽぽ。
タンポポが、その方の微笑みを持っていてくれた瞬間。
私自身も、毎日たくさんの「ありふれ」の中に生きていて、
そのひとつひとつを味わう力を、忘れてしまいがちです。
でも、たんぽぽは、踏まれても咲く。
綿毛になって、また旅をする。
誰かの「ここは天国か?」を、また連れてくるかもしれない。
ありふれを、丁寧に味わう。
私もまた、その力を取り戻しながら、暮らしていきたいと思います。
📖 大坂巌医師の著書『納得する生き方』
『納得する生き方:明日死ぬとしたら、あなたは今日、どう生きますか?』
(KKロングセラーズ、2025年8月)
緩和ケアの現場で多くの方に寄り添ってこられた大坂先生の言葉は、
医療者にも、ご家族にも、ご本人にも、静かに灯をともしてくれます。
オハナな縁側から、ひとこと 🌼
5月、旭川のたんぽぽ。
今日、目の前のたんぽぽに、ふと足を止めてみる。
何百キロも旅をしてきたかもしれない、その一輪に。
それだけで、少し違う一日になるかもしれません。
リビングルームのコメント欄でも、皆さまの「ここは天国か?」のような風景、
お聞かせいただけたら嬉しいです🌷
参考
大坂巌『納得する生き方』
ティク・ナット・ハン(禅僧・平和活動家)の言葉より
訪問の道すがら、田植えが終わった風景がとても心ひかれます。命のもとは、その存在そのものが、私たちのDNAを揺さぶるのかもしれませんね。

