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おすすめ本

興味深いタイトルですよねー、私のシェアハウス構想の原点の本のひとつです。
必ず笑ってしまう、必笑本です。

『へろへろ』ちくま文庫 鹿子裕文

訪問看護では様々な方とのめぐり逢いがあります。その中で在宅療養の限界があるのだとしたら、すまい型のサービスが求められると強く感じるようになりました。既存の介護サービスには魅力を感じられずに迷走していた所に出会ったのが今回紹介したい本、ちくま文庫 鹿子裕文さんの『へろへろ』です。

一般的に介護職ってキラキラ職とは言いにくいですが、へろへろになりながらニンゲンくさく日々奮闘するストーリーはエンターテイメントそのもので、とても輝かしく魅力的な生き方に心を奪われました。介護される方が救われるだけではなくて、そのストーリー自体が見知らぬ誰かの笑いとなり、要介護であっても誰かに幸福を与える存在、Giverであり続ける人生は、この『オハナなおうち』とも暮らしシェアハウスのコンセプトそのものです。

まずはいきなりメインディッシュですが、是非、このへろへろワールドを味わって頂きたい、そんな一冊です。

へろへろとの出会い

 この本との出会いは何がきっかけだったのか…思い出せないくらいに気がついたら本棚に紛れ、私の中に入り込んできたという感覚の存在、そのくせバイブルに感じてしまうどころか、リトマス試験紙のように私の変態性を露わとされた本といえます。そんな書き方をすると、え?、やっぱり!賛否両論だと思いますが、それは私の個人的な感覚ですので、それは横に置いておいといて…。

 お話の舞台は九州にある『宅老所よりあい』とその人々との、奮闘記であり、ドキュメンタリーであり、コメディであり、エンターテイメントであり、現代社会への提言であり、新しい介護のフレームワークであり、生き方の原点であり、人材育成であり、サバイバルスキルであり、サクセスストーリーであり、人生哲学であり、認知症お年寄りのトリセツであり、ザ・ノンフィクションよりもノンフィクションなエッセイなのです。(あとがきを読んで、エッセイだったのかと笑)

作者の鹿子さんの文章はクセがありすぎて、黙って読むのは困難です。願わくは読む場所を考えて読み進めるように注意書きが欲しかったですね〜。もしも連ドラになるのならクドカンさんしかいないでしょう。

 読み手ごとに十人十色の楽しみ方ができる『へろへろ』は、しれっとした外っ面に騙されないでください。目的をもたずにゴールも成功もないことを知りながら、そのお年寄りにただ沿うことを大切にしている「よりあい」の精神そのものが息づいていることを私は知っています。

へろへろの舞台

売れなさすぎっ子の編集者である鹿子さんが、スタッフに宅老所の雑誌制作を依頼されるところから物語は始まります。お年寄りがヨレヨレしながらいて、ヨレヨレしながら職員が働いているところから、雑誌名は❝「宅老所よりあい」のおもしろい雑誌 ヨレヨレ❞と5分もかからずに決まります。ひらめくときはそんなもんです。介護界だけではなく縁もゆかりもない人たちがその雑誌を手に取り読み、腹を抱えてげらげら笑ってもらえたら最高で、介護やぼけの世界を扱うからこそ、ゆかいで痛快で暗くないものを作りたいと考えます。幸運にもその舞台である「宅老所よりあい」はめちゃくちゃすぎるエピソードの弾薬庫として日常があることを、鹿子さんは普段から「よりあいの人々」と友人のように付き合っていたから、よく知っていたのです。この時代をうらやましく思いますよ、30年以上前のことですから。現代版印籠であるiphon伝来してから16年ですので、SNS炎上なんて想像もつきませんよね。むしろ注意深く考えると、介護やボケを調理しているわけじゃないんですよ、素材そのものが笑わさる(おもわずわらってしまう)んですから、自然界の化学反応を誰かに咎められる方が筋違いなのかもしれません。便利に飼いならされた代償として、へろへろのようなB級グルメがアングラ文化として息を潜めるのはもったいないと思うのは私だけでしょうかねー。

宅老所よりあいの原点

宅老所よりあいは、明治生まれの大場ノブヲさんが毅然とぼけたから始まりました。なんのこっちゃですよね。でもそれ以上でもそれ以下でもないのです。

むかーしむかし、あるところに、意志がものすごく強く、家で野垂れ死ぬ覚悟ができている『ばあさま』がおったそうな。そのばあさまは都会のマンションに住んでいたのじゃが、明治女の気骨一本で誰の世話にもならずに生き抜いてきた。どんなに毅然としておっても、寄る年波には勝てずに、毅然としてボケたものだから、悪臭やボヤ騒ぎを起こしてしまって、近所の心配の種となったとな。そこで、あらゆる人がばあさまの説得に訪れたそうじゃが、誰も太刀打ちできずに、あっさりと返り討ちされるもんで、たいそう困っておったそうじゃ。

そんな噂を聞きつけたのがこの物語のヒロイン、一風変わった介護専門職だった下村恵美子さんでした。誰もが手を焼く「とてつもないばあさま」がいると胸が高鳴りその顔を拝まないと気がすまないタイプの社会福祉士さん。(あー私の周りにも思い当たるひとがいるいる❗)

『ひとりの困ったお年寄りから始める。目の前になんとかしないとどうにもならない人がいるから始める。』この出会いがきっかけにたどり着いた先が、お寺の茶室を借りて始めた不思議で独特なディサービスでした。

「お寺の『よりあい』」は、是非に大場さんの力が必要だと明治女の沽券をくすぐるためのワードだったのです、偶然が必然となる瞬間それって運命かしらってこういうこというのかもしれません。

魅力的すぎる「宅老所よりあい」の面々

創設時は下村恵美子さん、永末里美さん、中島真由美さんの女子3人の船出でした。ディサービスの噂は口コミで広がり、行き場を失っていたお年寄りの駆け込み寺と仮し、茶室から広間、広間から本堂へお年寄りであふれるようになりました。そこでやはり、また例のミッションが発動する訳ですよ、『目の前のなんとかしないとどうにもならない人たちのために、自分たちの場を自分たちで作るしかない』と。場所を探し、お金を工面して、その一生懸命で楽観的な様子も、鹿子さんのフィルターにかかるとその物語はエンターテイメントとして磨きがかかり面白いのです。きっと実際にも楽しい苦労だったことでしょう。

そして、よりあいの代表である村瀬孝生さん。著者の鹿子さんは村瀬さんに本を出版してもらうためによりあいの世界に足を踏み入れることになったのですが、どういうわけだか馬があい家に泊まりに来る仲となり、気がついたら宅老所よりあいの世話人となり、史上最大級の大濁流に飲み込まれていくのでした。

うずまき濁流を乗り越え特養へ

やがて時代の変化にともない建物の老朽化や介護の取り巻く事情によって、特養を建てる選択をせざるを得なくなったのですが、やはりそこはよりあいの信念は変わらないのです。村瀬さんが「ぼくたちは老人ホームに入らないで済むための老人ホームをつくります」と宣言されます。なんのこっちゃですよね、解説を加えるとするならば、誰かが決めたプログラムで管理する世間一般的な老人ホームに入らないで済むための、『よりあい的老人ホーム』をつくるということです。その『よりあい的』とは、住み慣れた自宅での生活が少しでも長く続けられるようにまずは支えるところから始まり、通いで安心した居場所での日々を過ごすお年寄りが、いつしか「泊まり」を必要するようになった時にも利用できる老人ホームという意味なのです。言葉で施設が作れるのでしたら、どんなに簡単でしょう。絵にかいた餅なら紙と鉛筆さえあれば完成ですが、建物ですから言わずもがな莫大なお金が必要です。よりあいメンバーのバイタリティーはどこから湧き出るのでしょうか、その苦行でさえもやはり超人的な物語として成り立ってしまうのです。詩人の谷川俊太郎さんまで登場され、身ぐるみを剥がされオークションにかけられるとは…私の変態加減なんて足元にも及ばない可愛いものよと安心の笑みを浮かべてしまいました。

おわりに

このへろへろに散りばめられているイラストはモンドくんの味のある似顔絵です。3歳から描き出して小学生には週末似顔絵屋さんとして活動を始め現在17歳。俳優デビューされながらも毎日絵を書き続けている若きアーティストですで、へろへろにぴったりなテイストです。

このへろへろは特殊な特養の作り方で再現性は全くありません。どんなにがんばっても誰にも真似はできないものです。特養ができるまでのドタバタ劇は本当に面白く、鹿子さんが狙ったとおりに、介護に縁やゆかりがあろうとなかろうとお腹を抱えて笑ってもらえるものです。

このドタバタ劇から10年が経とうとしていますが、その当時に村瀬さんが地域住民にあつまってもらって『よりあいの森』の建設説明会を開きました。その話の中でこれからの介護のあり方を説いています。

「高齢者が増えに増えて、どんなに施設を立てても待機者は増える一方であるのに、労働人口が減っている状況で薄給の介護職は募集をかけても集まらない、それがこの国の高齢化社会の現実です。そして予測できたことなのに、経済成長至上主義で、有効な手を打ってこなかったツケを今から我々は払っていくということになります。そのツケをどうやって払っていくか皆で話し合いした結果、『老人ホームに入らないで済むための老人ホーム』を作ろう、自分たちの安心は自分たちでつくろう、誰にでもやってくる老いは逃れることができないのであれば、他人任せにせずに自分の問題として向き合うしかないのだという結論にいきつきました。そのためには自分の時間を誰かのために使うことが、ギリギリまで自宅で暮らすためのひとつの方法なのです。しかし、人が理念や幻想だけで動けるのは始めだけなので、むしろ遊び半分で興味本位で構わないので、一緒に何かやることを続けてみませんか。」まさに、それです。ストレートのど真ん中なのですよ。私がとも暮らしのシェアハウスを地域に生やしたいと考えているのは、まさにその理由のためであるし、そのスタンスがよいと思っています。

まとめ

鹿子さん節なのか、よりあい節なのか、読みものとしてもとても面白いストーリーです。是非、本を手にとって、よりあいワールドの濁流に巻き込まれて頂きたいです。そしてお腹が痛いくらい笑ったあとに、この先の未来へ自分は何ができるのか一緒に考えてみませんか?


バーチャルシェアハウス オハナなおうちは、みんなの居場所です。今日も楽しい時間をありがとうございました。会えてうれしかったです。いつでも寄ってくださいね。リビングルームにはコメント欄がありますので、何かリアクションしていただけたら励みになります。お気をつけてお帰り下さいね。また、お待ちしてます。

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