旭川の5月、ありふれを並べてみたら|オハナなお庭ダイアリー Vol.02

ニュースでは「ゴールデンウィークは真夏日」と賑やかでしたが、
わたしのいる旭川は、記録的な積雪から始まる5月でした。
寒いことは、寒い。
それでもお年寄りは、口を揃えてこう言います。
「招魂祭が過ぎるまでは、霜が降るから、苗物は早いよ」
招魂祭は、護国神社のお祭り。6月の第一土曜日から。
それまでは油断しちゃいけない、というのが、
北国の春の、昔ながらの目安なのだそうです。
そんな旭川の5月。
マダムクロコと一緒に、
わたしが訪ねた庭、出会ったお宅、
それからオハナなおうちの庭で見つけた花たちを、
並べてみました。
派手じゃない子ばかりです。
でも、ちゃんと、咲いていました。
目次
マダムクロコと、5月の旭川を並べてみた
5月の旭川で出会った5つの花。
それぞれに、マダムクロコの一言を添えて、並べてみました。
🌸 ジャーマンアイリス|ヒゲがあるアイリス

「ヒゲがある子なの。”わたしはアヤメじゃない” って、ちゃんと主張してる」
──マダムクロコ
別名、ドイツアヤメ。英名は Bearded Iris。花弁の根元に、ふわっとしたヒゲがあるんです。「アヤメ」と一括りにされがちだけど、彼女はジャーマンの名を背負って咲く別の子。
アイリス、というのはギリシャ語で「虹」のこと。虹の女神の名を持ちながら、北の庭で控えめに咲いています。乾燥に強くて育てやすいので、北海道のお庭ではガーデナーの定番なのだそうです。
🌸 芝桜|踏まれても、また咲く

「派手じゃない。咲き続けるって、強さなのよ」
──マダムクロコ
桜と名前についているけれど、桜じゃないんですって。ハナシノブ科の別の家系。
地を這うように咲いて、踏まれてもまた咲き戻る。誰かに見られなくても、淡々と仕事をする人みたいです。北海道では滝上町や東藻琴の絨毯が有名ですが、わたしのまわりでも、家の入り口や石垣のすきまに、こっそり咲いている。ありふれているからこそ、暮らしに溶けている花です。
🌸 スズラン|可憐な顔して、毒持ち

「全部、毒なのよ。可憐な顔して、ちゃっかり者ね」
──マダムクロコ
花も葉も実も、コンバラトキシンという毒を持っているんですって。それでもフランスでは、5月1日に大切な人へスズランを贈る「ミュゲの日」という習慣があるそうです。幸運のお守りとして。
毒も含めて、それでも贈りたくなる花。そういう存在って、人にもいる気がするのです。
🌸 ライラック|北国の5月を、そっと終わらせる

「北国の5月の終わりを告げる、控えめな主役」
──マダムクロコ
札幌の市の花。モクセイ科の小さな花が房になって咲きます。
ライラックが咲き始めると、北海道では「ライラック冷え」と呼ばれる、ちょっと冷たい風が戻ってきます。春の終わりに、もう一度、冬がそっと挨拶しに来るような、不思議な気候です。それも込みで、この花の季節。甘い香りは、香水の原料にもなるそうです。
🌸 タンポポ|混ざって、それでもタンポポ

「結局みんな混ざってる。それでいいのよ。それが、包摂性」
──マダムクロコ
そこらじゅうに咲いている、いちばん身近な春。
北海道に咲いているタンポポは、ほとんどが在来種と外来種の雑種だそうです。9割以上、もう純粋な在来種は見つからないくらい。それでも、ちゃんと、タンポポはタンポポとして咲いている。わたしは、それでいい気がしています。
スライドに入りきらなかった、5月の出会い
カルーセルには5枚しか入れられなかったので、ここから先はブログだけの記録です。マダムクロコの黒板の続き、というつもりで読んでみてください。
🌷 チューリップ|玄関先で迎えてくれた花

ある旭川のお宅で。
記憶のことで少し困りごとを抱えていらっしゃる方が、玄関先にチューリップの寄せ植えを飾って、わたしを迎えてくださいました。
何度かお話したことを忘れていらしても、お花のことになると目が違うんです。「ね、きれいでしょう」って、急に少女みたいに笑う。
人は、好きなことには、ちゃんと、輪郭がある。
玄関を開けたチューリップに、心まで、ほっこりさせてもらった日でした。
🌿 シラー・カンパニュラータ|やっと、花芽が上がった

オハナなおうちの庭に通うようになって、ずっと気になっていた葉っぱの群生がありました。「これ、何が咲くのかな」と、毎週覗いては待っていたのです。
5月、やっと花芽が上がって、ピンクの小さな鈴のような花を咲かせてくれました。シラー・カンパニュラータ、と呼ぶそうです。和名は「釣鐘水仙(ツリガネスイセン)」。
知らない花が咲く瞬間を、初めましてのまま、迎えられる。庭って、そういうご縁の場なんだなと思います。
🌹 砂漠のバラ|北の窓辺で咲いた奇跡

これは、訪問先で出会った珍しい花。
「砂漠のバラ」と呼ばれるアデニウム(Adenium obesum)が、ちょうど満開でした。本来はアフリカや中東の砂漠で育つ多肉植物で、根元が徳利のようにぷっくり膨らんでいるんです。砂漠で水を蓄える進化なんですって。
「砂漠から来た子が、北の窓辺で咲いてる。それを 見守った誰かの手 が、そこにあるってことね」
──マダムクロコ
北海道で開花させるのは、相当な手間がかかります。冬は10℃以下にしてはいけないし、室内で陽の当たる場所を探し続けないといけない。
それでも咲かせたあのお宅の窓辺には、たぶん、毎日の小さな気配りの積み重ねがあった。花が咲くって、誰かの手の物語でもあるんですよね。
🌼 黄色のツツジ|窓辺に移したベッドの話

これも、訪問先での春。
毎年、見事な黄色を咲かせるツツジがあるお宅で。
その日は、寝たきりのお母様にツツジを見ていただきたくて、ご家族がベッドを窓のすぐそばまで移されていました。
お母様、目はあんまり開かなかったけれど、頬がほんの少し、やわらかくなった気がしました。
「見せたい」って、それだけのことなんだけれど、それを毎年、ちゃんとする人がいる。
ツツジの黄色が、その日のお部屋全体を、やさしく照らしていました。
🌿 オダマキ&アジュガ|お庭までこっそりとおたがいさま

うちのシェアハウスの裏のお家との境界に、オダマキがそっと咲きました。前の住人さんが残してくださった置き土産です。
実はこの花の名前、わたし、最初「おだまり」って覚え間違えて、訪問先で言って大笑いされたことがあります。それ以来、忘れない花。
そして、オダマキの奥には、アジュガ(西洋十二単)が紫の絨毯のように咲き揃っていました。これはお隣のお庭の花。
こうして、お隣のお庭まで自分の景色として楽しませてもらうことを、日本庭園の世界では「借景(しゃっけい)」と呼ぶのだそうです。
──お庭までこっそりと、おたがいさま。
垣根のあちらとこちら、線を引かずに、ひとつの景色として味わう。それが、共生型シェアハウスの庭仕事をしていて、いちばんしっくりくる景色の楽しみ方になりました。
オハナなおうちの、お隣さんの庭にも、ちゃんと、ありがとうを。
ありふれの中に、ちゃんと、咲いている
派手な観光地の花じゃなくて、家の入り口、訪問先の窓辺、シェアハウスの裏、お隣との境界。生活のいちばん近いところに、5月の旭川は咲いていました。
これは、『容認』の練習場。
完璧じゃない庭で、ちゃんと、咲いている。

旭川の5月は、
やっと心地に良い気候に。
ありふれの中に、
ちゃんと、
お花(オハナ)が、ありました。
お後がよろしいようで。
──また、出会いを楽しみに。
Madam Kuroko’s Garden Lesson
オハナな縁側から、ひとこと
雪解けで、AIガーデナーのマダムクロコを召喚したのが先月(Vol.01)。あれから2週間、わたしのまわりはこんなにも花でいっぱいになっていました。
不思議なんですけど、マダムクロコがいると、ありふれの花にも、ちゃんと名前と物語があることを思い出させてくれます。
雑草と呼んでしまえばそれまで。でも、立ち止まって眺めれば、それぞれが、それぞれの理由で咲いている。
6月は、どんなお花と出会えるでしょうか。
マダムクロコと、また縁側で並んでお迎えできたら嬉しいです。

