ホーム > 管理人室 > 「ありがとう」でいいの?──「すみません」に込められた日本人のやさしさと心理学【感謝表現の境界線】

「ありがとう」でいいの?──「すみません」に込められた日本人のやさしさと心理学【感謝表現の境界線】

その「すみません」、本当は「ありがとう」かもしれません

コンビニで袋を受け取るとき、バスを降りるとき、荷物を持ってもらったとき。
気づけば私たちは「すみません」と言ってしまう。
でも心の奥には、確かに“ありがとう”の気持ちがあるのです。

この二つの言葉の間には、単なる語彙の違いではなく、日本人特有の心の動き方があります。

今日は少し心理学の視点から、やさしくその“心の境界線”をのぞいてみましょう。

I. 「ありがとう」に込められた“つながり”の心理

「有り難し」から生まれた、希少性への気づき

「ありがとう」は「有り難し(=有ることが難しい)」から来ています。
つまり、誰かの行為を「めったにない貴いこと」と感じる稀少性の認知が根底にあります。

心理学でいうと、これは「ポジティブ認知の再評価(reappraisal)」と呼ばれる心の働き。
日常の中で“当たり前”と感じていたことを「ありがたいこと」と再認識することで、
感情の幸福度が上がり、レジリエンス(回復力)を高めることが研究で示されています。

たとえば、

  • 「ありがとう」を口にした直後、脳内ではセロトニンとオキシトシンが分泌され、
  • 自他の関係を「安心できるつながり」として認識する。
    その一瞬の安心感が、ストレスを和らげる生理的作用さえあるといわれます。

II. 「すみません」が映す、他者への“共感的負債感”

負債感は、思いやりの裏返し

感謝の場面でも「すみません」を選ぶとき、
私たちは相手の労力や犠牲に心を向けています。
心理学ではこれを共感的負債感(empathetic indebtedness)と呼びます。

欧米の“thank you”が「うれしい・幸せ」という自分の充足感を中心にしているのに対し、
日本語の「すみません」には、他者中心の感受性が流れています。
「迷惑をかけてしまったかもしれない」
その思いが、人と人の距離をやわらかく整えているのです。

役割意識が言葉を選ぶ──“境界線の心理”

社会心理学では、人は会話の中で
「相手と自分の役割(role identity)」を瞬時に判断しているといわれます。

  • 相手の行為が役割の内側 → 「ありがとうございます」
  • 相手の行為が役割の外側 → 「すみません」

たとえば、訪問看護での処置は「ありがとう」。
でも、忙しい中で電球まで替えてくれたら「すみません」。
つまり「すみません」は、“役割を超えた思いやり”への感謝なのです。
相手の手間を見逃さない感受性──そこに日本人らしいやさしさが宿っています。

III. 「ありがとう」と「すみません」が交差する瞬間

夜中に緊急訪問した際、よく耳にする言葉があります。

夜分にすみません……。でも、来てくださって本当にありがとうございます。

呼ぶ側の不安と罪悪感、駆けつける側の緊張と使命感。
その両方を静かに受け止める言葉が、この二つの重なりです。

心理学的には、

  • 「ありがとう」=ポジティブな情動共有(positive sharing)
  • 「すみません」=共感的調整(empathic adjustment)

この二つが合わさることで、関係は対等で思いやりある信頼関係へと整っていきます。
“謝るように感謝する”という日本人の表現は、
まさに心の共鳴装置のようなものです。

IV. 言葉が人間関係を修復する

東京大学の研究(藤原 2022)では、
「申し訳なさをともなう感謝」を持つ人ほど、人間関係の満足度と幸福感が高いという結果が報告されています。

つまり、“すみません”を経て“ありがとう”にたどり着く心のプロセスは、
他者との絆をより強く、深くするための日本的な感情のデザインなのです。

🏠オハナな縁側から、ひとこと

「ありがとう」は、心を開く扉。
「すみません」は、相手に寄り添う椅子。

どちらも、人と人が心を寄せ合うための大切な言葉です。
負債感の裏にあるのは、思いやる力
“謝るように感謝する”そのやさしさこそ、日本人らしい美しさなのかもしれません。

まとめ──“感謝の言葉”は、文化の鏡

「ありがとう」と「すみません」は、まるで鏡の表と裏
どちらも、相手を大切に思う気持ちから生まれています。

その選択の瞬間、あなたの中の文化や価値観が静かに息づいているのです。
次に誰かへ言葉をかけるとき、
ほんの一拍おいて、「いま、どんな気持ちで伝えたいか」を感じてみてください。
その一拍が、きっと心をほどく風になります。

参考文献
⚫︎尾鼻靖子『感謝表現としての「ありがとう」と「すみません」の境界線 ―シンボリック相互作用理論を適用して―』関西学院大学リポジトリ
⚫︎藤原裕弥『日本人における申し訳なさをともなう感謝は幸福感を予測するか』(安田女子大学紀要, 2022)
⚫︎広辞苑第六版「すまない」「ありがとう」項
⚫︎得蔵寺『ありがとうの語源は仏教にある』
⚫︎松下幸之助『道をひらく』

#心に届く言葉 #言薬 #オハナなおうち #ありがとう #すみません #日本語心理学 #在宅ケア #看護のことば #介護のこころ #夜間訪問 #コミュニケーション #ケアの哲学 #心の境界線

『今日のひとことケア』とは?

忙しさや不安、さみしさを感じる日常の中で、
ふと心に寄り添ってくれるような、
あたたかくて、やわらかい言葉があります。

『今日のひとことケア』は、
出会った温かい言葉たちを届けるシリーズです。

体のケアと同じくらい、心のケアも大切に。
小さなひとことが、あなたの一日をやさしく包み、
ふっと息をつける時間となりますように。

誰かに届けたい「やさしいひとこと」はありますか?

あなたが出会った「心がふっと軽くなった言葉」、
誰かに届けたい「やさしいひとこと」はありますか?

『今日のひとことケア』では、
皆さんの「心を癒す言葉」「大切にしている一言」を募集しています。

・自分を励ました言葉
・誰かにかけてもらってうれしかった一言
・暮らしの中でふと思い浮かんだフレーズ など

投稿はコメントやDMでお気軽に。
あなたの言葉が、誰かの今日を支える力になります。

まとめ

バーチャルシェアハウス オハナなおうちは、みんなの居場所です。今日も楽しい時間をありがとうございました。会えてうれしかったです。いつでも寄ってくださいね。

リビングルームにはコメント欄がありますので、あなたの大切にしたいやさしいひとことをぜひ教えて下さいね。

お気をつけてお帰り下さいね。また、お待ちしてます。

シェアする